「困った時の紙頼み~オンライン紙めぐりツアー~」
ご視聴いただきありがとうございました!
今回はオンラインツアーということで、Googleアースを駆使し、オープニングの演出にも一層力を入れました。また、大川印刷としては初めてのZOOMウェビナー使用ということで、使いこなすのには大川はじめ苦戦しましたが、なんとかイベント本番までこぎつけることができました。
私はナレーションを生でいれることを意識しすぎて、BGMの音量を下げすぎるという失敗がありましたが、皆様、無理なくご覧いただけたでしょうか?
さて今回、大川印刷からは「大川ミュージアム~140年の時を越えて~」と題し、1891年の横浜貿易新聞の広告、94年前の印刷物で1920年発行の活字見本帳、シルクラベルについてご紹介したあと、「手フート」と呼ばれる活版印刷機についてライブ工場中継を実施しました!レポーターは大川が1歳の頃から働く、勤続52年の品質保証部・福与に担当いただきました。
続いて、ゲストのロギールさんにバトンタッチ。
高知県から生中継で、Washi Studio「かみこや」さんの内部をレポートしていだきました。
これがもう、かなり贅沢で「今すごくお金を払わなきゃいけない気が」と思うほどたっぷり、工房や高知の景色をご紹介いただきました。
「手漉き和紙の里山から」というタイトル通り、ロギールさんが土や砂利を踏みしめる音や、雲の形、四国カルストの石灰岩の山々から、現地の温度感や気候が、画面からもひしひしと伝わってきました。
詳しくはぜひアーカイブをご覧ください!
ロギールさんの次は、浪江さんにお話いただきました。
「世界の紙をめぐる旅」をされたご経験から、ネパールのカトマンズ、アメリカのポートランド、メキシコのメキシコシティと、3つの国の紙を披露いただきました。
その中でも、ネパールの手漉き紙が使われたノートは印象的でした!
表紙にささっているペンを抜くと、表紙があいてノートになり、中も全部手漉きのロクタペーパー!だそうで、魅了されました。
続いて紹介いただいた、アメリカはポートランドにある工房は、デザインの美しさだけでなく、活版印刷を行うその風景を買い手がいつでも見れる環境があるとのことで、他の工房との差別化をはかっているそうです。
活版印刷の工房が多い地域は日本と異なり、工房ごとの特色をどう出していくのか考えないと生き残れない、厳しい現実があるようでした。
そして最後は、300日旅をしてきた中で一番印象的だったという、メキシコのアマテを紹介いただきました。
この紙はやわらかく煮込んだあとのものを手でちぎってわけ、その繊維を板の上に並べ石で叩いて密着させることで紙にしているそうです。
現地では筆記用というよりは、壁に貼ったり飾ったり、観光客向けに販売されているようです。
「一口に紙といってもいろんな種類、色、デザインがあり、その質感も材料と作り方によって様々に違って、違う紙が世界各地に根付いていて、それを訪ね歩くこともすごい楽しいし、それを取り寄せて自分はどう使ってみようかなと考えるのも楽しいと思うので、そういうことが伝わっていたら嬉しい」と締めくくられました。
ちなみに浪江さん、イベント内で「早着替え」をするつもりが話に熱中して無理だったみたいです!
お二方のご紹介のあとは、「紙頼みクロストーク」ということで、対談セッションへ。
まずは、浪江さんとロギールさんがはじめて対面された当時のお話を伺いました。
はじめは軽い気持ちで「かみこや」さんの紙作り体験に参加されたそうですが、
「自分で作った紙を手にとったときに、これから一生私は手漉き紙に関わって生きていくんだろうなと思った」そうです。それは、「ロギールさんが一つ一つの工程とか材料に対して、本物ってどういうことだろうというのをちゃんと問いながら物作りをされていて、それを一回体験しに行っただけの私にも丁寧に教えてくれたから」というのが大きかったそうです。
ロギールさんは、「目つきがもうすごい集中してやられてた」と、当時の浪江さんの様子を振り返ってくれました。
お二人のお話から「本物」を感じた大川が、その内実を尋ねるとロギールさんは、
「感性っていうか、なんか感じることが違うっていうか。良いと悪いではなくて別。違うストーリーがあるはずですね。それを手に取りゆっくり観察することで、どこかに本物ってわかるんじゃないかなって思います」と述べてくださいました。
浪江さんは
「それがなんで感じたのかって言われると、なんでだったんだろう」と思考をめぐらしつつ、
「でも今自分でも紙を作ったりし始めてみて思うのは、私が作る紙はまだ本物じゃないなと思って。それは紙を作っていうことそのものに対して、かけてきた時間とか作る時間だけじゃなくて、調べたり試行錯誤をしてきた時間が少ないからなのか、使っている原料が日本の伝統和紙で使われるものとはまた違うものだからなのか、そのへんの色々がかけあわさって、そう感じると思うんですけど。何を選ぶにしても、材料を選ぶにしても作り方を選ぶにしても、ちゃんとこう理由があって、その理由が安く仕上がるとか、早く仕上がるっていうだけじゃない理由でちゃんと選び取られて、物作りをされている方のものは、本物に見えるんじゃないなかっていう気がします」と、ご自身の経験を交えて言葉にしてくださいました。
私からはロギールさんに、機械も化学肥料も使わないことへのこだわりがあるのか、質問したところ、
「こだわりも最初はあったけど、いい紙を作るってどういうこと?というのをずっと追っかけています」とのコメントが返ってきました。
そして、
「紙をつくるので大事なのは、自然との関わり。和紙は特に多いですね。水がなかったらつくれないし、干すときは太陽を使うとか、有名な人間国宝が言っていたことは、一日は何をしますか、どういうふうに決めますかと質問聞かれたとき、外出て、空を見て今日はどういう天気、どういう気候で、じゃあ、今日は何できるか。機械を使わなかったら、雨ふったら干せないし、雪50cmあったら収穫できないしとか、大雨ふったら濁ってるから紙漉きたくても漉けないし、紙漉き屋は自然に合わせる、それが修行。紙漉きでなくても、人間としては毎日、周りの環境に合わせる。イライラしない。そういうことは、いい紙につながっていっていた。速くたくさんつくりたいから機械欲しいけど、それはやっぱりだめですね。ベースとしては、それを守っていて思い出されるし、大事にしてます」との言葉が。
もうこの言葉、あっぱれでした。感嘆するしかない、とはこのことかと。
同時に、大学のとき所属していたゼミでインタビューをした、働き方研究家の西村佳哲さんの言葉が蘇りました。(唐突)。
「目の前の机も、その上のコップも、耳にとどく音楽も、ペンも紙も、すべて誰かがつくったものだ。街路樹のような自然物でさえ、人の仕事の結果としてそこに生えている。(中略)たとえば安売り家具屋の店頭に並ぶ、カラーボックスのような本棚。化粧板の仕上げは側面まで、裏面はベニア貼りの彼らは、『裏は見えないからいいでしょ?』というメッセージを語るともなく語っている。(中略)やたらに広告頁の多い雑誌。10分程度の内容を1時間枠に水増ししたテレビ番組、などなど。様々な仕事が『こんなもんでいいでしょ』という、人を軽くあつかったメッセージを体現している。それらは隠しようのないものだし、デザインはそれを隠すために拓かれた技術でもない。また一方に、丁寧に時間と心がかけられた仕事がある。素材の旨味を引き出そうと、手間を惜しまずつくられる料理。表には見えない細部にまで手の入った工芸晶。一流のスポーツ選手による素晴らしいプレイに、『こんなもんで』という力の出し惜しみはない。このような仕事に触れる時、私たちは嬉しそうな表情をする。なぜ嬉しいのだろう」(『自分の仕事をつくる』p9~10)
「この社会で生きることは、24時間・365日、なんらかの形で人の仕事に触れつづけることだと思う、それら一つひとつを通じてわたしたちは日々、無数の存在感ないし不在感と接している。『いる』とか『いない』とか。(中略)仕事の先にはかならず人間がいる。あらゆる仕事は、直接的であれ間接的であれ、それを通じて人間に触れてゆくし、人間を取り扱う。が、その扱いがどうこうといった話以前に、主体の在・不在という問題があるということ。(中略)プレゼント(present)という言葉の語源は、ラテン語のesse(=to be)にある。つまりプレゼントとは『生きて・いる』ことであって、存在(presence)そのものが贈与であるということ。なにをくれるとか、してくれたということ以前に、双方が互いに『いる』状態を更新すること。より『いる』ようになることが、贈り物の本質的な役割なのだと思う」(『自分をいかして生きる』p33~36)
この文脈でいえば、ロギールさんの手漉き和紙や手仕事には「いる」という、主体の在の感覚が伴っていて、それを受け取った浪江さんにも「生きて・いる」感覚が伝播していったのだと、感じられました。
その後、「私の紙語り~オンラインネットワーキング」と第した、第二部では、
「紙が好き・興味がある・印刷関係の人がいる」という空間であることが嬉しかったです。
いつも当社のオンラインイベントにご参加くださる方が、実は高知の紙会社に勤めていた!ということが発覚したり、宮城県仙台市の印刷会社の方も、切実な胸の内を打ち明けてくださいました。
伝統の「柳生和紙(やなぎふわし)」をつくられる方が90代で、最近跡継ぎとなったお嬢様も70代とのこと。
この場で聞かなかったら、きっと知らないままだったかもしれないお話でした。
第二部含め、とても濃く凝縮されたイベントをお届けできたかと思います。
ロギールさんが何気なく、「イライラしない」とおっしゃっていましたが、これはまさしく人間の実存を問うことだと思いました。
自然と対峙してもほとんど人間の思うようにはならないもので、そこに合わせるというのは言葉では容易く言えても、何年も実践されている人の懐の広さは格別だなあと思いました。
ロギールさんのまとう柔らかなオーラというか、雰囲気が手漉き和紙の申し子のようで、感じるものが大きかったです。
浪江さんもまだまだ若いうちから、紙に対する矜持というか、内に秘めた覚悟が静かにほとばしっていて、心打たれました。
気候変動とかSDGsとか偉そうなこと言ってきたけど、誤解を恐れずに言えば、そんなものが入る余地のない、感覚世界に魅了された気がしました。
お二人の言葉、何度も噛み締めたいです。
紙は生きている。
困った時どころか、どんな時も紙頼みでありたいと感じました。
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